「もし自分の土地が侵略されたらどうする?」
そう、ある依頼の最中に質問されました。
私の回答は
「主の手を煩わせるまでもありません。賊共をこの手で容易く葬って見せましょう。…主?」
この回答はとっさに、反射的に出たものでした。
"私"もしくは"継承されている記憶の主"には、"主"と呼べる存在がいたのでしょうか?
思い出そうと記憶を探っても、靄がかかったかのように思い出せません。
仮にいたとしても、7000年以上前の存在。もう生きてはいないでしょう。
しかし、自分で言っておいてなんですが、随分と忠犬の様な物言いですね。
さぞかしその"主"に心酔していたのでしょう。ある意味思い出せなくてよかったとも思えます。
依頼は遠く離れたある亡国の難民達の拠り所に出没したライカンスロープの討伐。
2度仕事を共にしたリュディもその亡国の出身らしく、言われてみれば交易共通語の訛りや笑い方が若干依頼人に似ていた気がします。
私は何も持たない。
積み上げてきた過去も曖昧に失い、やりたいことも特になく、日々の日銭だけを稼いでいる根無し草。
今の肉体年齢は分かりませんが、十数年もすれば消えることでしょう。
彼の嘗ての同郷の民と再び暮らしていこうと尽力する姿はとても羨ましく思います。
私にもああして寄り添って生きていこうとする人々がいたのでしょうか。
ライカンスロープと言えば、最近儀式で同族を増やすようになったと聞きましたが、結局今はどうなっているのでしょう?
追記
最近ではなく、私が眠りから覚める前(約7000年前)でした。
ライカンスロープは自力での繁殖ができず、儀式でのみ増える形に落ち着いたようです。
この日記は魔法文明語で記述されています。
|