某月某日、アッシュの日誌 #1 : 日誌
アッシュ  (投稿時キャラデータ) 風神 2019-03-27

今回の依頼は実に興味深く思えた。
マリアンデールの要請の下、呼び集められた五人でパーティを組んで依頼に臨んだが、
五人中四人が僕と同じナイトメアだったというのは、僕にとっても過去に無かったことだ。
長く冒険者稼業を続けていれば同族を見かけることは多々あるが、仕事のレベルを同じくする者は少ない。
ましてそれが一堂に会して多数を占めるなど、余程にこの店の冒険者層は厚いと見える。
だが……その中でもとりわけ僕の興味を惹く者が一人、いた。

以前、花見を騒がせたデュラハン上位種の討伐で仕事を同じくした……僕と同じ、エルフ生まれの同族。
デュラハンを追う中で見かけた、剣の加護を一時的に与える奇跡の珊瑚……それによって水の加護を共に得たときのあの表情。
間違いなく僕の同族だと確信した。そうでなければ、あの優しき水への違和をああも表に出すことなどあり得まい。
彼は言葉少なに、自らの出自を明かすなど間違ってもしなかったが……あの時の反応の全てが、僕に確信を抱かせるには充分に過ぎる。
僕としたことが注視してしまい、彼の不興を買ってしまったが……そうした失態を晒してしまうほどに、彼という存在は印象的だった。

多分に私見を含むが、彼はまだ若い。
寿命など然程の価値も無い僕達ナイトメアだが、彼の振る舞いは随所に向こう見ずな若さを窺わせた。
彼の戦い振りは実に苛烈で、一秒でも早く敵を屠らんとする攻勢特化そのもの。
僕とはまるで正反対な戦闘スタイルも、彼という存在を気にかけてしまう要因なのかもしれない。
ともすれば彼の戦い方は危うく……寿命と同じく、然程の価値もない命を、より軽んじているようにも見えた。
まるで傷ついた山猫のような男だ。どうにも放っておけず……かといってかける言葉も見当たらず、ただ視線を向けるに留めてしまう。
……久しく覚えなかった感傷だ。ただの同族であればこうも気には留めなかったものを、あの奇跡を同じ場所で体験し、同じ違和を覚えた縁で、どうにも一方的に気にしてしまう。

彼は討伐依頼を終えたあと、さっさと姿を消してしまった。
今回の依頼も、呼び集められたときにそっけなく一言名乗っただけだ。
僕は彼を覚えているが、彼の方は僕のことなど覚えてもいないのだろう。
それはそれで構わないが、あの時感じた危うさもそのままで、やはり気にしてしまう。
……まるで乙女だな。我ながらジョークにもならない悪趣味な物言いだが。
なんにせよ、あの危うさのまま命を落とさないでほしいものだ。
彼は僕の感傷など意に介さないだろうが、見知った側としては、やはり多少は心配する。

……同族と言えば、ルーセリアという少女は対照的に明るい印象だった。
多分に表面上の印象でしかないだろうが、彼とは違って口数は多く、感情も露わにしていた。
向こう見ずな若さに然程違いはないだろうが、彼ほどに心揺り動かされる不安は覚えなかった。
年長者気取りの思い上がった言葉とは承知の上だが、どうか健やかに生き延びてもらいたいものだ。

……ピピミックという男については、よくわからない。
彼について言及しようとすると、例えようの無い違和のようなものを覚える。
真面目に考えようとすると僕の常識がかき乱されるようだ。
だから、彼についてはこのまま筆を置こうと思う。
世の中には触れるべきでないものが多々ある。彼もその一つだったというだけのことだ。

芸姑めいた彼女については、特に述べることもない。
ありふれた人間だ。しかし、飄々とした振る舞いの中にはしっかりとした芯を感じる。
紛れもなく英雄の気質。僕が関わるまでもなく、彼女はさらなる高みへ至るだろう。

……随分と長く筆を執ってしまった。
柄にも無い真似をした。こんなものを書いて、一体誰に読ませるというのか。
だが、新鮮ではある。ここ二十年は無かった感覚だ。
しばらくは、興味を惹く物事あらばこうして筆を執ってみるのも悪くはないかもしれない。
手帳は用意しておくことにしよう。

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